本書は,筆者が京都大学に提出した博士論文などを再編した,結社の自由についてのモノグラフである。

はしがきによれば,本書は,基本的人権の1つである結社の自由について,独自の展開を示してきたフランス法における議論を参照しつつ,これまで不十分であった日本における議論の刷新を試みるものである。具体的には,「第1部フランスにおける結社の自由法理の成立と展開」,「第2部結社の自由と法人理論」,「第3部フランス非営利団体法の精度と理論」,そして「第4部日本における結社の自由保障」と,フランスの法制度・法理論を紹介し,最後に日本法における解釈論を展開するという構成になっている。

第1部においては,フランス革命以来極めて反結社的な立場を維持してきたフランス法において,非営利団体の結成を認めた1901年結社法がもった意義を明らかにすることが試みられる。そこでは,社団が法的には構成員の契約として捉えられること,すなわち個人を基点として結社を理解する視点が存在することが指摘され,結社の自由が対抗権力の関係でのみならず,「契約」であるが故に,私人間の関係においても問題となることが明らかにされる。

第2部においては,フランスにおける法人論争が回顧される。結社の自由が認められたとして,それは法人格取得をも当然に認めるものであるのか。この問題について擬制説と実在説が対抗したが,ミシューの技術的実在説が両者を乗り越え通説化し,判例の採用するところとなったとされる。さらに,フランスにおける立法の展開が追われ,質的にも量的にも結社の法的能力が拡張される過程が示される。

第3部においては,フランスの非営利団体法の現行制度と理論が検討される。反結社的な性格を強くもっていたフランス法体系も,今日に至っては非常に多岐にわたる団体法制度を獲得していること,それでもなお1901年法の画期性が際立つことが示される。

こうしたフランス法の検討から得られた知見をもとに,日本における結社の自由の保障に関する問題を扱うのが,第4部である。 第4部では表現の自由に解消されない結社の自由の意義を抉出すべきという問題意識から,個人・結社・国家という三者間関係が問題となる結社の自由は他の基本的人権とは異なる構造を有するという観点から,結社の自由論をこれら三者が取りもつ関係ごとに再構成することを試みる。

第1部から第3部までは,フランス法の学説・制度の展開を内在的に検討するものであり,資料として価値が認められる「労作」(安西文雄)であろう。複数の論文を再構成したということからか既述の重複が多いことや,細部についてやや痒いところに手が届かない印象がある(特に著者の見解らしきものが示されている部分に唐突な印象を与えるものが多かった)が,評者はフランス法の議論を独自に追跡する能力に欠けているから,この点について具体的な批判はなしえない。

第4部については,問題意識自体は共有できるが,三者間関係が問題となるのは本当に結社の自由に独自のことであるのかといった疑問を抱いた。しかし,一般法人法など私法規定を憲法学の見地から読み解く試み自体は興味深いものであった。法人という問題設定自体,最先端の研究者たちは問題の存在を意識しているようであるが,今日では「議論の実益がない」として検討されることが少なくなっている。しかし,人の集団に対して法人格を付与するということの意義を再考する意義はなお認められるのではないだろうか。そして,本書はその課題に切り込むための一つのきっかけを提供しうるものであるように思えた。